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No.23 女とお金 [short-short]

 「おまえさ、金と女だったら、どっちが好き?」
 「俺は、女だな」
 「おれは、金のが好きだけど、女だな、なんてしれっと言い切っちゃうおまえは根っからのスケベなんだな。で、いつ覚えた、女は?」
 「一年の時だったかな。女覚えたのは。金に比べりゃ、全然簡単だよな女の方が。シンプルだよ」
 「シンプルだから難しいってこともあるよ」
 「それはいえるな。頭じゃわかってるのに、なかなかカッコよくはできないもんな」
 「じゃあ、酒はどうよ?」
 「それは三年になってからだ」
 「酒より女のが早いなんて、やっぱりスケベだこいつ」
 「うるせぇ、勝手に言ってろ。これが今の時代の主流なの、普通なの」
  「博打は、どうなんだ?」
 「それはもうちょっと後だな。そんなもんおまえ、覚えなくたっていいぞ。世の中で役に立つとも思えないし。博打知らねえヤツは世の中のいっぱいいるさ」
 「でさ、女は、誰から、教わったんだ?」
 「おまえもよく知ってる由美子だよ。大切なのは順番よ、とか言ってな。手取り足取り、基本から教えてもらったよ」
 「いい女じゃないか」
 「優しい女ではあったな。年離れてたから、初めなんか俺を子供扱い。でもなんにも知らなかったのは事実だったからな」
 「他にもいろいろ教えてもらんたんだろ」
 「まぁな、でさ、教えてもらったよことは、誰かに教えたくなるじゃん。だから俺はさ、右も左もわからない女の子にも、前はこう、後ろはこうとか、いろいろ親切ていねいに教えてやっているんだぜ。偉いだろ、俺」
 「偉かねぇよ、よけいなお節介っつーんじゃねぇの。ほっときゃ自然に覚えるだろ」
 「そうかもしれないけどいいじゃん、教えるくらい。でも小学生が覚えなきゃいけない感じって、いっぱいありすぎだよな」


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No.22  秘密のアッコちゃん [short-short]

 最近、旦那の明彦の様子が妙だ。
 まずひとつはAKBなんて、これまで見向きもしなかったのに、
この2,3カ月前から、テレビに出ていると真剣な眼差しで
凝視するようになったこと。
 そしてもうひとつが、ほとんど独り言をいうことなどなかったのに、
自室でパソコンに向かっているとき、お風呂に入っているとき
洗面所でヒゲを剃っているとき、ブツブツ言うようになった。
何を言っているかは聞き取れないので、なんとか確かめてやろうと、
その度に、「何かいった?」とあたしが問い返すと、ハッとしたように
「別に…」などと応える。
 会社の仕事や人間関係でストレスを抱えるようになったとか、
環境の変化があったのかと心配になって
ご飯のときに、最近何かかわったことはあったのかと
問いかけてみたのだけれど、特にはないという。
 でも、女の勘でだけど、絶対に何かある。何か隠している。
気になり始めたから、やってはいけないことは百も承知だけど、
手帳とケータイを、少しだけ覗かせてもらうことにした。
 旦那がお風呂に入った時が、チャンス。
バスルームのドアが閉まる音を確認してから、あたしは旦那の
部屋に入って、ビジネスバッグのジッパーを開いた。
 週刊誌と手帳、ケータイ、ハンカチなんかが入っている。
まず、手帳を取り出し、今日の日付の欄をみた。客先の名前と訪問時間、
ミーティングの時間などが夫の字で書き込まれているだけだ。
最近一週間分のものをチェックしたが、意味不明な記載や記号もない。
先週、その前の週のページも、怪しそうなものは書かれていなかった。
 次に、ケータイを取り出して通話履歴を見た。ほとんどの通話が会社で、
あたしとの通話もあったが、確かに連絡があった時間に間違いはなかった。
メールについても送信履歴、受信履歴をスクロールさせてみたが、
不審に思われる相手とのやりとりはなかった。
 (あたしの思い過ごしだったのかな…)
少しほっとした気持ちになって、手帳、ケータイをカバンの中のあった
場所に戻そうとして、おや?、と思った。
 入っていたちいさな紙袋に印刷されたデザインに、見覚えがあった。
カバンから取り出してみると、ピンポン! やっぱりそうだった。
最寄り駅のショッピングモールにある、下着屋さんのものだ。
もしかして、わたしにプレゼント?と思って、テープをそっと剥がして
中を覗くと、真っ赤なレースが見えた。取り出してみると、スケスケの
ブラとショーツだった。サイズを見ると、とてもあたしには入らないサイズ!
その瞬間、猛烈な怒りがこみ上げてきた。
 レースの下着を握りしめ、あたしはリビングに戻りどうとっちめてやろうかと、
ソファーにふんぞり返って思案した。
 こんなときは、まずビールだ。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、
乾いた喉に流し込んだ。
 ちきしょう、あの野郎!浮気してやがったな。誰だ、相手は。
場合によっちゃあ、ただじゃあ済ませねえぞ。離婚だ。
慰謝料たっぷりもらってやらなきゃあな。
どおりでこのところずっと夫婦生活がなかったわけだ。
どうせキャバクラだかどっかの糞女相手にへらへらしてんだろ、あのバカ!
 手持ち無沙汰になったあたしは、下着の紐に人差し指をひっかけてクルクル
回した。
 そこに、お風呂から出た旦那がパジャマ姿で入ってきた。
クルクルと回る赤いモノを見た瞬間の驚いた顔ったらなかった。
 あたしは怒りに燃える気持ちとは正反対に、醒めた口調でいった。
「この下着は-、どなたのでしょうかねー。誰がつけるんでしょうねー、
ずいぶん派手なお色ですねー」
 あたしの指先から下着を奪い取ると、旦那はそれを掌で握りしめ
カラダの後ろに隠して立ち竦んだ。
 なんだか、いたずらが見つかった小学生のような仕草だった。
 二の句の継げない旦那を、床に正座するようにいった。
肩を落として俯く姿を見ていたら、またまた怒りがメラメラと燃えだした。
「これは貴方が買ったものですよねー」
「………はい……」 
「で、だれが、着るんですか?」
しばらく、沈黙の時間が続く。
「もう一度訊く。誰が、着るんですか?」
答えは聞こえてこない。
「あんたの両親に、このこと言うからね」
「そ、それは勘弁して……」ようやく旦那が口を開いた。
「じゃ、言え。誰が着るんだ?」
「そ、それは……」
「言わないんだったら言うぞ、親に。いいんだな」
「……アッコちゃん、です」
ようやく認めたか、どこの女だ、そいつは。
こうなったら徹底的に痛めつけてやらなくては気が済まない。
妻であるあたしをなめた罰だ。
「あ?、誰だそれ?」
「それは………」
自分でもここまで性格がSだとは思わなかったが、こうなったら止まらない。
「呼べ。ここに。そのアッコとやら、連れてこい」
「え?………」
「呼べって」
「いや、でも……」
「いいから呼べよ」
「……呼んで、どうするのか……」
「土下座させんだよ」
「………呼ぶっていっても、すぐには無理だし……」
「かんけーねぇ!」
「………三、四十分かかるだろうし」
なんだ、割と近くにいるんじゃねーか。
「待つよ」
「……わかったよ」
「わかったよじゃねーよ、わかりましただろ!」
空になった缶ビールを投げつけると、旦那はのそりと立ち上がり、
自分の部屋へと入っていった。
上等じゃないか。一気に話つけたろうじゃないか。
もう一缶、あたしは缶ビールを開けた。こんどはロング缶だ。
しかし旦那のヤツ、部屋からケータイでアッコちゃんとやらを
呼び出しているんだろうが、本当に来るのだろうか。
ここに来るってことは相当の覚悟がいるはずだ。
あたしと離婚させてバカ旦那と一緒になるつもり、とか言うんだろか?
まさか、すっげーケバイ姉ちゃんで、怖いお兄さんとか連れてきたら
どうすんのあたし? あたしとしては、あいつが二度と浮気しないように
釘を刺しておきたいだけだったんだけど、
あれ、どうしてこうなっちゃったんだろう。
AKBみたいな女の子だったら、どうすりゃいいんだ?勝ち目ないぞ。
 そうこうしているうちに、三十分ほど経った。
旦那は鍵をかけて部屋に籠もったきりだ。
「おせーぞ!まだ来ないのか」ドア越しに、怒鳴り散らすと。
もう少しだから、と返事があった。
 ビールを飲みながらボーッと天井を見つめていると、カチャリ、と
旦那の部屋の鍵を内側から開ける音が、聞こえた。
その方向へと目を遣ると、少し開いたドアから、旦那の声が聞こえた。
「何があっても、しらないからね」
アッコちゃんとやらが、ウチのドアまで来たのだろう。
あたしも覚悟を決めた。
 その直後、旦那の部屋から金髪にクソ長いつけまつげに口紅とほお紅までつけた
メイクをして、真っ赤なレースのブラとショーツを着けた旦那の明彦が
恥ずかしそうに出てきて言った。
「アッコでーす」


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No.21  名医 [short-short]

なんか、肛門が痛ぇ。
もしかしたら、切れているかもしれない。
フロ入ったとき、ついでに自分の指で触ってみたけど、やっぱ痛ぇ。
激しく出血しているわけじゃあないのだが。触ると痛みが走る。
原因は自分でもわかっているのだけれど、それは他人には言えない。
絶対に、秘密だ。俺にとっちゃ国家機密よりもずっと重要だ。
この痛さは放っておくと、不味いことになるかもしれないと思い、
俺は勇気を振り絞って、肛門科のある医院を探して受診することにした。
受付で健康保険証をだして、問診票とやらに記入すると、
名前を呼ばれるまで待っていてくださいと看護士が言うので、
待合室のベンチで週刊誌を眺めて順番が来るのを待った。
しばらくすると診察室から俺の名前を呼ぶ声が聞こえたので、
診察室のドアを開けてなかに入っていった。
「そちらお掛けください」
医師は顔も見ず、机に向かってカルテと覚しき書類に書き込みながら言った。
「どうなさいましたかぁ?」
患者である俺の顔も見ずに言葉だけ投げかけてくるので、
この医師は患者をちゃんと診察する気がないのではないかと、一瞬ムカッときた。
そんなのは問診票を見れば一発でわかるではないかと
言ってやりたい気もしたが、こちらも診察してもらう立場だし、
見てもらう場所が場所なもんで、
偉そうな態度をとるわけにもいかず、今の症状を言った。
「数日前から肛門のあたりに痛みがありまして……」
「なにかご自身で、心当たりはありますか?便秘が続いていて
無理に硬い便を排便しようとしたとか…」
「……いやぁ、これといって、思い当たることはないんですけど」
原因は自分では百も承知なのだが、絶対に秘密だ。他人には言えない。
「では穿いているものをお取りになって、そこのベッドに壁側を向いて
横向きに横になってください」
医師はティッシュペーパーの紙ボックスような箱から、薄手のゴム手袋を
取り出し、両手に被せた。
(そうだよな、やっぱり、見るよな。医者だもんな。
肛門、他人には見せたくはないけど、医者だもんな。
肛門触って欲しくないけど、触るよな、治療だし…)
横にいた看護士は、
「着ていたものはそこのカゴにお入れください」
事務的な口調とともに小さなベッドの周囲に吊り下げられたカーテンを引いた。
言われるままに、俺は下半身だけ丸出しでベッドに横になった。
間髪を入れず、医者の手が俺の尻を掴み、局部に目をやった。
「で、痛みを感じるのはどのあたりですか?」
「その、肛門の入り口あたり、だと思うんですが…」
恥ずかしさを堪えて、返事をした。
「同性愛の方に、時々ありますね。無理に挿入しようとして、
切れたのかもしれませんね」
げっ!!! 何でバレたんだろう。問診票にはそんなこと書いてないし、
こんな短い会話のやり取りでは、わかるはずないのに。
「あのー、なんで、わかったんですか?掘られたって……」
ドクターは溜息一発入れてから言った。
「肛門は出口です。入り口としてつかう人は限られていますから」


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No.20 変態かなぁ… [short-short]

「なぁ、ワタナベ。俺の話、聞いてくれないか?」
バイトの同僚であるナオトが、ロッカールームで帰り支度をする
俺の横でニタニタ笑いながら意味深なことをいうもんだから、
本当は早く帰ってビデオ屋にでも行こうと思っていたのに、思わず
「じゃあ軽く居酒屋でも寄ってく?」
乗り気はないのに調子よく返事をしてしまった。
俺のリアクションにナオトがあまりにも嬉しそうな顔をするから、
面倒な話でないことだけを願って、ビールでも引っ掛けていくことにした。
店に入り、頼んだ中生のジョッキを喉を鳴らしながら流し込むと、
ナオトが語りはじめた。
「実は俺、生まれて初めて、女の人を好きになっちゃったんだ。
自分自身でも意外だったっていうか、不思議というか、
よくわかんないんだけどさ。俺のタイプっていうか、理想の具現化というか、
もうズバリなわけよ。顔といい、プロポーションといい、最高なんだ。」
嬉々としているナオトを見て、うわ、面倒くせぇ!と思ったけど、
仕方ない、これもまた付き合いってやつだ。
「で、名前はなんつーの?」
別に興味もなんもないけど、間の手代わりに訊いてやる。
「朝倉まな。いい名前だろ?、いい響きだろ?。
まなちゃん、結構な巨乳なんだぜ。たぶんEカップとか、
Fカップとかありそうだな」
「触ったの?、揉んだの? Fカップ?」
「いいや、見ればだいたいわかる」
「わかんねーぞ、女は。寄せたり上げたりしてるかもしんねーじゃん」
「それはともかく、俺が好きになったのは顔なんだよ。
もうスッゲー可愛いの!」
「いくら言葉で説明されてもわかんねーよ。写メとかないの?
あるんなら、もったいぶらないで見せろよ!」
「初めて見たのが1カ月くらい前なんだけど、俺、毎日見てるの。
朝起きて見て、大学から帰ってきてすぐ見て、バイトから帰ると寝るまで
夜中まで見てるの。俺もうメロメロなわけよ。俺って変態かな?」
ナオトはにやにやしながらケータイの写真フォルダから選ぶと、
液晶に現れた「まなちゃん」の画像を
水戸黄門の印籠のように俺の目の前に差し出した。
「うわ、すげー可愛いじゃん! もう告ったのか?
つーか、付き合ってんのか?」
「まだだよ。告るどころか、話しかけてもいねえよ。
毎日まなちゃんを見てるだけ、それって変態かな?」
「話かけてもねえのに毎日見てるって何それ? つーか、誰だよこの子…」
「AVに出ていた女の子。借りてからもう毎日何回も見ているんだよ。
いやぁ惚れた。マジ惚れた! なぁワタナベ、俺って変態かなぁ?」
「1カ月前にレンタルしたAVを毎日見てる?」
「うん。ファンレターでも書こうかな。なぁ、俺って変態かな?」
「いや、変態じゃないけど、おまえ、それ延滞だぞ。
はやく返さないと凄い金額になっちゃうぜ、延滞金!!」


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No.19 ヘアスタジオ・ミミック [short-short]

「いらっしゃいませ、お客様。当スタジオは初めてですね。
チーフスタイリストの翔です。今後ともよろしくお願いします。
きょうはカットですね。どんな感じでいたしましょうか」
「あのさ、知ってる人が、ここであんたに福山雅治風にカット
してもらったら、とっても上手かったっていうから、来てみたんだ」
「そうですか、ありがとうございます」
「とっても上手だったって、みんなにいってたよ」
「光栄です。で、今日はどのようにカットいたしましょう」
「でさ、杉ちゃんって知ってる? 最近急にブレイクした
ピンの芸人さん、いるでしょ」
「杉ちゃんですか。えーと、はい、知っていますが……」
「あんな風にしてくれたらいいんだけど」
「……杉ちゃん、ですか?」
「うん、あんな風にしてくれたら、おもしろいかと思って。
できるでしょ、さあ、やって!」
「でも、やったことないんで、上手くいくかどうか、自信ないというか」
「だいじょうぶでしょ」
スタイリストは鏡に映ったお客様の見つめると、いった。
「では、五分ほどお待ちください」
そしてバックヤードに下がると、ノートパソコンでGoogleの画面に
杉ちゃん、動画と入力して検索した。
you tubeに上がっていたその映像を数分間しっかりと見て 
杉ちゃんを脳裏に焼き付けると、お客様のところへと戻った。
「では、はじめさせていただきます」
スタイリストはお客様に一礼すると、シザーバッグから鋏と櫛を取り出し、
お客様にむかって、語りかけながらカットを始めた。
「ワイルド杉ちゃんだぜー。ワイルドなんだぜ。
ワイルドなところ見せるぜー。ワイルドにカットするぜー。
このお客さんをワイルドなモヒカンにカットするぜー」
「あ、やっぱ福山雅治にしてもらおうかな…」
「あんちゃーん!、小雪がいなくなっちまったんだよ!
探しに行かねぇのかよ!」

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No.18 大きいのを口に入れて…… [short-short]

何コソコソ話してんだ、おまえら。
ん?コイツが大きいのを口の中に入れたって?
何の話してんだよ数学の授業中に、
おまえらしょうがねえスケベ野郎だな。
で、マジで入れてみたんか?
スッポリと入った? お前のあれが?
やるじゃん!男の本懐を遂げたんだねぇ。
で、どうだったの?口の中に入れてみて。
狭苦しい感じがした?
へえー、大きいんだ、おまえのあれ。
やるねぇ、草食系の顔して。
なんてよんでるか知ってるかって?
知るかい!そんなもん!
え?ちなみ、ってよんでいる?
へぇ、かわいい名前じゃん。
違う呼ばれかたするときもあるって、つまり愛称とかか?
まさか、チーちゃんとかよんでたりして。
はははは、何のろけてんだよ、コノヤロ!
何?、いん? いんちゃん?
変わってるね、渾名?
え? ……ちゃんは余計?
何でそんな呼び方してんの?
あ、もしかして、入れちゃったからイン? 
インサートの略ってか?
え?、違う…
あ、わかった、「淫ら」のイン?違う?
俺が変態?欲求不満?
悪かったな!どうせ童貞だよ!
おおきなお世話だよ。
一般常識がないって? それは違うだろ。
ん? 国語力の問題?
なんだそれ!
え? 漢字の話?
因数分解の「因」の字? 
あ、そう……
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No.17 新婚しんちゃん [short-short]

「ちょ、ちょっと待ってて……」
晋太郎はベッドに横たわる新妻の芽衣の耳元でどもり気味に囁くと、
何も身につけずケータイ電話を片手にバスルームへと入った。
どうしたらいいのかわからず、とにかく相談しなくてはと
慌てて電話をかけた。
「ママ。ボクだよ…」
「あらしんちゃん、どうしたの?まさか新婚旅行の初日で
もうケンカしたとかじゃないわよね」
「ちがうよママ…」
「どうしたの?、何か困ったことでもあった?」
晋太郎はケータイ電話の通話マイク部分を片手で覆いながら、
小声で言った。
「やりかたがわからないんだよママ…」
「わからないって、何よ? 言ってごらんママが教えてあげるから」
「実はさ、夕方ホテル着いて、夕ご飯食べて、それでお風呂に入って
寝るところだったんだ」
「それで?」
「結婚したんだから、しなきゃいけないと思って、始めたんだ…」
「始めたって、何を始めたの、しんちゃん?」
「……だから、その、セックスに決まってるだろ」
「あらよかったじゃない」
「よかったじゃない。本に書いてあったように、
順番通りちゃんとやったんだ」
「なんて書いてあったのかしら、その本には…」
「いちいち言わせないでよママ、わかるだろう」
「言ってくれなきゃ、ママだってわからないわよ。
何がちゃんとなの?」
「めんどくさいなぁ。だからぁ、キスして、胸さわったら、
そこから後は勢いだって、書いてあったから、勢いよく
胸さわってみたけど、その後どうすればいいの?」
「わかったわ、初夜の営みね。いましんちゃんは電話してるけど、
芽衣さんはどうしてるの?」
「ベッドにいる。ちょっと待っててっていったから、まだ
ベッドにいる。バスルームから電話してるんだよボク」
「わかったわ、しんちゃんママの言うことよく聞いて、聞いたようにやるのよ」
「はやく教えてよママ」
「いい?、しんちゃん。女の子がおしっことウンチするところ、わかる?」
「わかるよ、それくらい」
「そこにね、えーとねぇ、つまりその、晋ちゃんが夜中に
よく握っていたところあるでしょ、晋ちゃんのカラダの一部…」
「それを?」
「それを当ててグッと奥まで突っ込むの、思いっきり」
「思いっきり?、痛くない?」
「痛くたっていいのよ、初めは」
「だけど、濡れているんだよ」
「あらま晋ちゃんやるわね。上手なんじゃない?」
「え?それでいいの。でもボクの、濡れちゃうよ」
「いいの、それで。晋ちゃんも後になればよかったと思うから。
それだけよ。いい思いっきり突っ込むの。初めは痛くてもしょうがないの。
そのうちよくなるの。それでいいの、いい?わかった?」

 そして、十分ほど時間が経った。
「芽衣ちゃーん、助けて~、取れないよ~」
晋太郎の叫ぶ声を聞いて芽衣は飛び起き、バスルームのドアを開けた。
 そこには、便器に拳を突っ込んだ裸の晋太郎が、泣きながら
しゃがみ込んでいた。
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No.16 クリ…………ス [short-short]


え、何? さっき俺たちが話してたこと、
横から聞いちゃった?
何のことだか詳しく教えてくれないかって… 
別にいいけど…。
さっき話してた、あれのこと、だよね?
クリで始まって、スで終わる……。
別に知ってても役に立つことじゃないよ、
そんな珍しくもないし、普通の話だと思うけど。
あれにさわる機会なら、女の人の方が
男より断然多いんだから、女の人に訊けば?
女の人なら絶対一日に何回かは触るでしょ。
ん?、訊けないから俺に訊いてる?
男の俺が声を出して言うなんて、ホントに
おこがましい話だと思うよ。
簡単にひとことで言っちゃえば、あれを男が
扱うときは、思ってる以上にそっとやさしく
扱わなきゃダメってこと。
ソフトタッチでやさしく丁寧に扱わないと
いけないってことなんだよ。
さわればとすぐわかるけど、とってもやわらかいから、
急につまんだりひっぱたりしちゃダメだ。
両側にフリルみたいなピラピラがあるのは知ってるだろ。
なんでそんなものがあるのだろうかって?
それは中にバイ菌とか余計な物がなかに
入らないようにするための重要な役割をしてる
とっても大事なものなんだって聞いたことあるけど。
その、ピラピラの真ん中に割れ目があって、
ピョコンと顔をだしているのがあるだろう? 
あ、ほとんど出ていないときとか、
たくさん出ているときがある。
そこを軽ーく、ソフトタッチで両側から
二本指でつまむように持ち上げると
破れずに取れるよ、クリネックスは。
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No.15 クレーマー [short-short]

「店長! レジに来てます。クレーマー。
責任者出せとか、店長呼べとか言ってます」
「やれやれ、またかよ。で、こんどはどんなクレームだ?」
「なんでいつも俺が買うコーヒーが今日は売り切れなんだと…」
「売り切れたんだからしょうがないだろうに…。
で、ちゃんと謝って他の商品オススメしてみた?」
「はい、でもいつも買うやつじゃないとダメだって言ってます。
なんで俺が買うのに取っておかないんだって…」
「常連さんかい?」
「いいえ、めったに見ない顔です」
コンビニの店長を任されている以上、バイトの手前もあるし 
クレーマーが現れたからといって逃げるわけにもいかない。
俺は休憩していたバックヤードからレジへと向かった。
「お客様、この店で店長しております山辺と申しますが、
ウチの者がなにか失礼を?」
「お? 何か失礼をじゃねーよ。失礼極まりねぇよ。
こいつら。俺がいつも買ってるコーヒー牛乳がよ、
もうねぇとか言ってんだよ。買おうと思ったのによ。
いつも買ってやってんのに、なんで今日はねぇんだよ。
どうゆうことか説明しろっていってんだ」
いきり立っているのがビンビン伝わってくる。
「申し訳ございません。新鮮さが問われる商品は、
品切れしてしまうこともございます。
本日のところは他の商品で勘弁いただけませんせしょうか?」
「俺はいつものが飲みてぇの!あれ飲まないと眠れねぇの!
他の買えなんて、おまえら、客をなんだと思ってる?」
 買えないのをわかっていて、怒鳴って、当たり散らして
日頃の鬱憤を晴らそうとするタチの悪いタイプ。
「お客様とは大切な、ありがたい存在だと思って
商売させていただいております」
「そうだよ、客があってこその商売だろ?
じゃあ客が買いたいっていってんだから何とかしろ!
売り切れだ、で、簡単に済ますなっつーの!
俺は客、おまえらから見ればお客様だ、わかってんのか?」
「はい…」
「お客様は神様ですって言葉知らねーのか?、おう!」
長居されると他のお客様に迷惑だ。そろそろ何とかしなければ。
俺はアタマをフル回転させて考えた。
「はい、お客様は神様、ですね。」
「そうだ、俺は神様だ、わかったんならなんとかしろ」
「でもお客様、お客様が本物の神様であっても、
私はあなたに従いません。
日本には信仰の自由がありますから!」
 目が点になって言葉に詰まったクレーマーは、
その場でフリーズした。
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No.14 作家志望 [short-short]

あ、あそこにいるのはこのあいだ、
なんとかっていう文学賞を獲った小説家の先生だ!
この前、テレビのニュースにでていた人だ!
すげぇ、話しかけて、握手してもらおう!
「先生!、ボク、先日のニュース見て感激しました。
先生、とってもカッコよかったです」
 小説家は少々照れながらも、少年に尋ねた。
「なんであんなくそ面白くもない記者会見の、
どこがカッコよかったというんだ君は…」
「だって、私がもらって当然だと思う、とか、
都知事閣下と都民各位のために、もらっといてやる。
なんて、受賞の記者会見でコメントした作家の人、
いままでにいなかったじゃないですか、
たくさんのマスコミの人たち相手に、
もう、とっとと終わりましょうよ、なんて、
最高にクールで、カッコよかったっすよ!」
「……そう。一応礼を言っておこう、ありがとう坊や」
「先生、ボク今中学二年生なんですけど、
あれを見て、ボクも大人になったら、
ぜったいに小説を書いてみようって思いました。
作家になって賞をもらいたいって思ったんです!」
「坊やには悪いが、そいつは無理だな」
「え、どうしてですか? 先生!
いまから本とかたくさん読んで、いろんなことを
勉強すれば、なれるんじゃないですか?」
 小説家は、気まずそうに応えた。
「……大人になんかなったら、小説なんて書けないんだ」
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