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No.21  名医 [short-short]

なんか、肛門が痛ぇ。
もしかしたら、切れているかもしれない。
フロ入ったとき、ついでに自分の指で触ってみたけど、やっぱ痛ぇ。
激しく出血しているわけじゃあないのだが。触ると痛みが走る。
原因は自分でもわかっているのだけれど、それは他人には言えない。
絶対に、秘密だ。俺にとっちゃ国家機密よりもずっと重要だ。
この痛さは放っておくと、不味いことになるかもしれないと思い、
俺は勇気を振り絞って、肛門科のある医院を探して受診することにした。
受付で健康保険証をだして、問診票とやらに記入すると、
名前を呼ばれるまで待っていてくださいと看護士が言うので、
待合室のベンチで週刊誌を眺めて順番が来るのを待った。
しばらくすると診察室から俺の名前を呼ぶ声が聞こえたので、
診察室のドアを開けてなかに入っていった。
「そちらお掛けください」
医師は顔も見ず、机に向かってカルテと覚しき書類に書き込みながら言った。
「どうなさいましたかぁ?」
患者である俺の顔も見ずに言葉だけ投げかけてくるので、
この医師は患者をちゃんと診察する気がないのではないかと、一瞬ムカッときた。
そんなのは問診票を見れば一発でわかるではないかと
言ってやりたい気もしたが、こちらも診察してもらう立場だし、
見てもらう場所が場所なもんで、
偉そうな態度をとるわけにもいかず、今の症状を言った。
「数日前から肛門のあたりに痛みがありまして……」
「なにかご自身で、心当たりはありますか?便秘が続いていて
無理に硬い便を排便しようとしたとか…」
「……いやぁ、これといって、思い当たることはないんですけど」
原因は自分では百も承知なのだが、絶対に秘密だ。他人には言えない。
「では穿いているものをお取りになって、そこのベッドに壁側を向いて
横向きに横になってください」
医師はティッシュペーパーの紙ボックスような箱から、薄手のゴム手袋を
取り出し、両手に被せた。
(そうだよな、やっぱり、見るよな。医者だもんな。
肛門、他人には見せたくはないけど、医者だもんな。
肛門触って欲しくないけど、触るよな、治療だし…)
横にいた看護士は、
「着ていたものはそこのカゴにお入れください」
事務的な口調とともに小さなベッドの周囲に吊り下げられたカーテンを引いた。
言われるままに、俺は下半身だけ丸出しでベッドに横になった。
間髪を入れず、医者の手が俺の尻を掴み、局部に目をやった。
「で、痛みを感じるのはどのあたりですか?」
「その、肛門の入り口あたり、だと思うんですが…」
恥ずかしさを堪えて、返事をした。
「同性愛の方に、時々ありますね。無理に挿入しようとして、
切れたのかもしれませんね」
げっ!!! 何でバレたんだろう。問診票にはそんなこと書いてないし、
こんな短い会話のやり取りでは、わかるはずないのに。
「あのー、なんで、わかったんですか?掘られたって……」
ドクターは溜息一発入れてから言った。
「肛門は出口です。入り口としてつかう人は限られていますから」


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