No.25 ワイヤレス [short-short]
オフィスにある自販機の前で由梨はアタシを見つけると
ペットボトルを片手に小走りに近寄ってきた。
「聞いて聞いて!」
「なになに?、どうした?、なんかあった?」
あたしたちの会話はいつも決まったように、こんな遣り取りから始まる。
「この前さあ、飲み会かなんかの時にさあ、時代はワイヤレスだよって
話になったじゃん?」
「なったなった、なったことある」
調子よく答えたものの、うーん思い出せない。そんな話したっけか?
合コンだっけか、社内の打ち上げだったかな、わからないけど
由梨が言うからそんな話したんだろ。
「だからね、アタシもワイヤレスにしようと思って、買いに行ったの」
「へえ。人の話ちゃんと聞いてるんだ。でもアンタ、ちゃんと繋がった?」
「それが全然だめなの。繋がってくれないの」
「ま、初めはそうかもしれないねアタシんときも男に手伝ってもらって
なんとか、だよ。協力してもらわなきゃ無理だわ」
「だよねー。だから買って帰ってすぐ、同居中の彼氏に見せたんだ。
見て見て!って」
「そしたらやってくれた?」
「全然。あ、そう、とか言っただけで、なんにもしてくれないの。
がっかり。すぐやってくれるだろうって思ってたのに」
「まあ設定自体は面倒ちゃ面倒くさいからね。でも一度繋がっちゃえば
あとはサクサクだから。気持ちいいよ」
そこに合コン友達のサクラコが、入り込んできた。
「なんの話をしてるかと思いきや、ワイファイかよ~あんたらもやるねぇ、
何ワイワイしてるかと思えば、ワイファイの話とは、なんて駄洒落にも
なってねえかハハハ…」
あーあ、こいつが入ってくるとよけい話がめんどうになるんだいつも。
「で?、初期設定はマニュアル通りに進めたの?ちゃんとパスワード設定した?
使うのは、iPhone?iPad?どっち?」
休憩も終わりそうだから、アタシが由梨に問いかけると、
なにやら小首かしげて困った表情。
簡単な問いかけに、何もたついてるんだよ。
「ワイヤレスの通信に環境にするんでしょ?自宅を…」
アタシがそう言うと、由梨はまた気まずそうに応えた
「ワイヤレスって、その、あたしブラジャーの話だったんだけど…」
コメント 0